リスクマネジメントという言葉は巷でよく耳にするが、クライシスマネジメントという言葉に馴染みあまりないだろう。
TVのワイドショーを観ていて『リスクマネジメント = 危機管理』と思っている評論家・ジャーナリストが多いのは事実。
【リスク管理(Risk Management)】とは、
『想定されるリスクが“起こらないように”、そのリスクの原因となる事象の防止策を検討し、実行に移すこと』。
「危険性を未然に防ぐ」という考え方をもとに行う危険管理。
【危機管理(Crisis Management)】とは、
『危機が発生した場合に、その負の影響を最小限にするとともに、いち早く危機状態からの脱出・回復を図ること』。
「危機は必ず発生する」という前提のもとに行う危機管理。
経営学において、『リスクマネジメント(狭義)』は、【純粋リスク】と【投機的リスク】に大別されてきた。
【 純粋リスク 】
企業や組織に対して、損失のみ与える危険性を指していて、【静態的リスク】とも呼ばれている。
大別すると、
『財産損失リスク』
『収入減少リスク』
『賠償責任リスク』
『人的損失リスク』
● マイナスの影響(ロス)のみを生じるリスク
● オペレーショナルリスク
● 事故・災害・賠償責任発生の可能性
● 「守る」「防ぐ」「保険をかける」ことに関わる決断の対象
【 投機的リスク 】
利益・損失両方が発生する可能性のある危険性を指し、【動態的リスク】または【ビジネスリスク】ともいわれている。
大別すると、
『経済的情勢変動リスク』
『政治的情勢変動リスク』
『法的規制変更リスク』
『技術的情勢変化リスク』。
● マイナスの影響(ロス)とプラスの影響(ゲイン)のどちらかを招く可能性
● ビジネスリスク・戦略リスク
● 新規事業展開・設備投資・新製品開発・資金調達・M&Aなどの成否をめぐる不確実性
● ビジネスチャンスや経営戦略に関わる決断の対象
【純粋リスク】は、予報や予測によって統計的把握しやすく、【投機リスク】は、影響度や発生頻度は異なものの、それぞれのリスクを正確に把握したリスクマネジメントは、最重要経営課題の一つ。
常に情報収集を怠らず、対策を模索することは企業が果たすべき責任である。
しかしながら、リスクマネジメント部門はリスクを評価して対応策を構築するのが専門なので、想定外の脅威に対応することはできない。
会社が本当の危機に直面した時に、存続を賭けた【危機管理】の正念場を指揮は、【経営トップの専管事項】だ。
危険性は負担しなければならない場合もあるが、危機はいかなるものも叩き潰しておかなければならない。
【危機管理(Crisis Management)】は、会社と社員、その家族の将来を守り抜くという【経営者のマネジメント】だ。
危機管理上の事態において、指揮官は十分な情報がもたらされるから判断するようでは遅い。
情報は極めて断片的に、前後の脈略無く、大きなバイアスがかかっている場合も多い。
情報がなければ決断できないトップは、情報があっても決断できないと断言してもいい。
危機管理において指揮官にとって最も重要なことは、【即応すること】 すなわち【最初の一手を打つ】ことだ。
「危機管理も必要だが、まずは収益を上げなければ。」
「危機管理はお金がかかるし、大企業のような大きな組織でなければできない。」
「大災害時には危機管理をやっても無駄に終わるだろう。そうなったら諦めるしかない。」
といったお考えの経営者は驚くほど多い。
危機管理に関する経費は、どうしても負担しなければ商売が続けられないものでなく、余裕があれば負担できる経費程度にしか考えていないからだ。
「危機管理は重要とは思うが、どうすればいいかわからない。」
という声もよく聞く。
「BCPの作成が必要です」と言って、作成することがゴールと考えている損害保険会社の社員や、防災訓練を行うだけのコンサルタント、クライシスとクライムも勘違いして防犯や警備を代行しているだけの業者は多数存在している。
しかしながら、想定外の何が起こるかわからない事態への対応を課題にしているのが【危機管理(Crisis Management)】だから、一般的な原理原則は存在していない。
それゆえに、危機管理を専門とするコンサルタントが極めて少数なのも事実だ。
クライシスマネジメント‐コンサルタントの一人として提言する。
【危機管理(Crisis Management)】は危機が生じた際に対応するマネジメントではない。
危機に見舞われた場合に、対策本部の設置や特別な態勢を慌てて取り組むものではなく、日常やるべきことを淡々と積み重ねていくことで実践するもの。
危機管理は、社長の指揮の下で、全社を挙げて立ち向かうもの。
【危機管理(Crisis Management)】は予測不可能な事態に立ち向かうマネジメント。
これからの時代の企業経営には絶対に必要なマネジメントなので、早急に取り組んで欲しい。
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